円本の稼ぎ頭

11月
『日本文学全集』の出現をキツカケに後から後からと出版された「円本」は警視庁管下だけで16種遂には「安くさへあれば」主義の90銭本、50銭本、35銭本から3冊1円など競争者簇出で出版界は正に円本の黄金時代を現出した。これに目をつけた東京税務監督局では各方面からの調査を進めた結果、<現代日本文学全集は、第1、第2を通じて32万、世界文学37万、大衆文学9万、世界大思想7万、近代劇3万5,000、世界戯曲3万、明治大正文学22万、小学生16万、児童文庫12万>と申込人数を推定した。之によつて十種の全集の総定価を5,889万5,000円として文士の懐ろに入る印税は定価の1割乃至7分であるから完結3ヶ年として478万8,950円と云ふ素晴らしい額だ。各全集の執筆者は合計493人ゆゑ、1人当り9,700余円、約1万円近くの印税(現綱領)が文士連のふところにころがり込んで来る。なかには1人で幾種類かの全集に執筆してゐる者はそれこそ10万円位の収入は確実だし、紅葉、獨歩、漱石その他の遺族達も思はぬ時に多額の金が入つて来るので、今更ながら個人に感謝の涙を新たにしてゐることだらう。殊に菊池寛氏の如きは3か年間に得る印税原稿料25万円、文士連切つての最高収入者と税務署は見込んでゐる。
(国民新聞)

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