医学博士ベロナール心中

富士見高原病院副院長の格にあつて正木不如丘博士の片腕となり内科医長として氏を助け社会的にも可なり地位の高い上諏訪町医学博士寺嶋長門(34)は名古屋きつての旧商舗森信一氏の娘森美佐子(27)と名古屋から千種への列車中芥川氏が自からを殺すに選んだベロナールを多量に嚥下し眠るが如く果て、女は危篤。
寺嶋医学博士森美佐子両人の乗車券は千種駅上諏訪間を持つて居たが、察する処寺嶋氏は我家に赴く前にすでに死を決して居たものらしく黒皮旅行鞄の中に十数通の遺書と交つて芥川龍之介著『地獄篇』が収められて居た。
(信濃毎日)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください