永井荷風『断腸亭日乗』より

六月二十五日。晴れて風涼し。終日三番町にあり。夜お歌を伴ひ銀座を歩む。三丁目の角に蓄音機(ちくおんき)を売る店あり、散歩の人群をなして蓄音機の奏する流行唄(はやりうた)を聞く。沓掛時次郎(くつかけときじろう)とやらいふ流行唄の由なり。この頃都下到処(いたるところ)のカッフェーを始め山の手辺の色町いづこといはずこの唄大(おおい)に流行す。その外はぶの港君恋し東京行進曲などいふ俗謡この春頃より流行して今に至るもなほすたらず。歌詞の拙劣なるは言ふに及ばず、広い東京恋故せまいといふが如きもののみなり。
(永井荷風『断腸亭日乗』より)

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