浪花節大流行

8月
内務省が発表したレコード検閲件数からみると、流行歌が3,983件と断然トツプを占め流行歌時代といへるが、浪花節を含む邦楽も1,684件と件数では流行歌に押されてはゐるが、1件でレコードの表裏2枚も3枚も続くものがあるため枚数でははるかにこれを凌いでゐる。検閲官の話では、
「最近眼立つてふえて来たのは浪花節です。邦楽の半分は浪花節だと見てもいゝでせう。流行歌の流行はいま始まったことでも無いが、最近の傾向は歌詞の中に対話が入ることでケンチヨな例をあげれば『二人は若い』の〝あなアた、なアんだい〟といつた歌詞のやうにね、それに長唄のサワリなどをとり入れた『野崎小唄』『三人吉三』といつた類もぽつぽつ見えて来たやうです」
(国民新聞)

横光利一の欧州印象

欧州に出かけてゐた作家横光利一氏は本日午後7時半下関着の関釜連絡船で4ヶ月ぶりで帰朝、山陽ホテルのグリルにて欧州旅行の感想を次のやうに語つた。「フランスは左翼、ドイツはナチスで両国の対立、両国民の相違等非常に興味あつたが、煎じ詰めると右翼も左翼も紙一重だ。国民の大部分は利益によつて動いてゐるとしか思へぬ。仏国は文壇といはず美術といはず全部左翼だが、日本のプロレタリア芸術とは大違ひ。マルクス理論では許されぬかもしれないが、芸術そのものは相思の如何に拘らず絶対的のものとして取扱はれてゐる……。オリムピツクの感激は今更いふまでもないが、あらゆる点で民族的な差別観念がなかつたのはうれしく思つた。第12回オリムピツクを東京で開催すると日本の文化は物理的にも精神的にも10年は飛躍すると思ふ」
(東京日日)

前畑ガンバレ

午後10時45分飯田氏の開設が国内放送され、次いで「日本の皆様……」と河西アナウンサーの朗らかな第一声がベルリン大プールから流れて来た。待ちに待つたこの一戦、日本国民は皆ラヂオにかぢりついたのだ。そしてその時刻銀座松屋前の某ラヂオ商会の前も黒山の人だかり、アツパツパのお内儀さんが駆けつける、夜店の親爺が屋台を放り出してやつて来る、円タクが集まる。そして、今晩零時少しすぎラヂオは叫んだ「前畑あぶない、頑張れ前畑、頑張れ頑張れ頑張れ」次いで轟々といふ喚声の間から「勝った勝った勝った勝った前畑が勝った、有難う、前畑」ベルリンからの河西アナの放送である。タイムも順番も構つてはゐられないのだ。これが人間としての、日本人としての感情であるのだ。全国民はこの放送に魅了され感激したのだ。街は熱狂の嵐だ。歓喜は旋風の如く街に嵐をまき起こした。
(東京日日)

ベルリン・オリンピック

第11回ベルリン・オリンピック大会が49ヵ国4,000余人の選手が参加し、ベルリンで開催。日本選手は179人が参加、陸上競技三段跳びで田島直人が世界新記録で1位、原田正人が2位、マラソンで孫基禎(そんきしょう)が優勝、南昇龍(なんすんにょん)が3位に入賞した。水泳競技では女子200メートル平泳ぎで前畑秀子がドイツのゲネンゲルとの接戦の末、優勝。男子200メートル平泳ぎは葉室鉄夫が、1,500メートル自由形では寺田登がそれぞれ優勝した。さらに800メートルリレーでは遊佐正憲、杉浦重雄、田口正治、新井茂雄が力泳、世界新記録を出して優勝、水泳日本の名を高めた。